アイヒェ×2
ダメモトが功を奏したと言うか。偶然ってすごいと言うか。それともこれは必然だったと言うか。
なんと言おうと結論は変わらないし、そんなことはどうでもいいことなんだけど。
とにかく、ダグラス―――このテの情報からは遠い位置にいる人―――が採取場所を教えてくれたのが夏も終わる頃のことだった。何か知ってるってわかってたらもう少し早く聞いたのに、なんて悔しく思わないこともない。
私の住んでいたロブソン村は、ザールブルグから見ると大雑把に言えば西に位置している。ので、東側のことは初耳で。
教えてくれたダグラスに護衛として付いてきてもらって、東の大地まで行ったのがこの間のこと。
かの地では、知らないアイテムとかが一杯あって面白かったんだけど。
帰ってきて何よりも驚いたのは、アイヒェを材料にしての、魔法の紙のこと。
アイヒェって単なる木にしか見えなくて(実際そうなんだけど)、何の役に立つのかも良くわからないのに、やたらと手に入るなぁ、なんて思っていたんだよね。
貯めておいても勿体無いし、作れるアイテムを探してみたら…これがびっくり。魔法の紙しかなかったの。
目の前には、山になるほど多量のアイヒェ。
これから作れるアイテムは唯一魔法の紙だけ…。
だったら、もうブレンドにブレンドを重ねて最高級の魔法の紙を大量生産するしか術がない、なんて思っちゃったのは、最近疲れがたまっていたからだったのかなぁ。
わざわざポエポエの手を煩わせての強行軍…。
冷静になって考えると、、、ちょっと馬鹿かも。
我に返ったのは結構後になってからで。
その頃には、採取に向かったポルンと調合したポエポエによる見事な連携プレイから目をそらしたくなるくらい沢山の魔法の紙が出来ていたりした。
アイヒェに比べると体積をとらないから、すっかり忘れてた…。
魔法の紙って、参考書とかによく用いられる紙なんだよね。私が参考書なんか書くわけもないし、どうしよう。って思っていて思いついたのがアカデミー。
先生達の中には、参考書を書く方だっているわけだから、もしかしたら買い取ってくれるんじゃないかな、って。
ダメモトで乗り込んだところ、大当たり!
思ったよりも随分高い単価で買い取ってもらえた。うーん、よかった。
それにしても…。なんであんなに買い取ってもらえるんだろう。先生達ってそんなに沢山本書いてるのかなぁ。その割には、図書館の本って増えないけど…。
***
さて、エリーが不思議に思った魔法の紙の使用主だが。
世の中は彼女の知識からのみなりたっているわけではもちろんないわけで。
意外な人々がその紙を使っていたりするのである。
誰が使っているのか?
答えはアイゼルが知っている。
つまり、貴族の令嬢たち。
誰が始めに言い出したのかは謎だが、『魔法』の紙という名前がヒットして、いつの頃からか彼女達の間では、日記は魔法の紙に書くもの。と相場が決まってしまっているのだ。
というわけで。
エリーの作った魔法の紙には、極みを求める錬金術の知識ではなく、乙女達の内緒の秘密が書かれることになる。
***
あら、もう紙がないわ。
最近日記の量が増えてしまっているのよね。
書き足りないけれど、仕方ないわね。
ああ、でも書けないとなると。書きたくて仕方なくなってしまう。
だって、今日は朝一番にノルディスに会えたんですもの。最近、私も調合で中々部屋を空けられないし、それならノルディスが部屋から出て来れないのは当たり前のこと。
わかってはいるけれど、会いたい気持ちが抑えられるわけではないんですもの。
最近、会えない。
わかっているけれど、それでも明日の朝彼に会えたらどんなに幸せだろう…。
まさか、昨日日記に書いたことが実現されるなんて夢にも思わなかったから。
思わずいつも以上に筆が進んでしまったのよね。
日記を書くなら魔法の紙。
あ、待って。
最近自分で作った紙を使っていたから失念してしまっていたけれど、アカデミーでも売っていたんじゃなかったかしら。魔法の紙。
やっぱり。
魔法の紙はアカデミーで簡単に手に入った。
もう書きたい気持ちを抑えることなんかできなくて、思いのたけを書き綴る。
今日のノルディスは…
今作ろうとしているアイテムのことを語る彼の目の真剣さ。
失敗してしまったときのことを話す照れくさそうな様子。
幾らでも書きたいことは後から後からわいてきて。
やっと筆を置けたのは、それから随分立ってからのことだった。
…ふぅ。
それにしても、随分高品質の魔法の紙ね。
インクののりもいいし…。色見も綺麗だわ。目の詰まり方から見て、おそらく劣化も遅いんじゃないかしら…。
悔しいけれど、私の作った紙よりも優れた点が目に付くわ。
私の気持ちを書く日記ですもの。
出来るだけ優れた紙に書きたいわ。
でも、秘密の日記ですもの。
人の作った紙なんかに書くのなんて、出来れば避けたい。
こうなったら、私の魔法の紙をブレンドしていくしかないみたいね。
出来るだけ品質効力を高めて。
でも、それだけではつまらない。アカデミーで買えるあの紙に負けない程度のものであるに過ぎない。それよりも遥かに優れたものを作らなくては止まらない気持ち。
紙に輝きを加えてみたらどうだろう…。
出来上がったのは、虹色の聖水を隠し味に使った魔法の紙。
光の加減によって七色に光る。
私の作った、私の気持ちを映す紙。
紙の光に負けないくらい、私の気持ちも光ればいい。
明日、ノルディスに会えますように…。
※エリーのアトリエサイト、「オレンジの軌跡」様閉鎖の為、頂いてきた品々です。
こちらの5作品を書かれたのは、管理人をされてらっしゃった「まはる」様です。なので二次著作権はまはる様にあります。無断転載などはされないでください。
閉鎖を知り、無理を言っていただいてきてしまいました。こんなに素敵な作品がWEB上からなくなってしまうというのは凄く残念な事だと思ったのです。では、どうぞお楽しみくださいませ。
アイゼルって初めはイヤなやつなの? と思ったけれど、実はイイ人だった。
やっぱりノルディスとお似合いデス。プレイ中、この子の恋路を邪魔した事は一度しかありません。
(どういう反応するか見たかっただけでした)