19.恋心

  



 がつん、という鈍い音とともに。
 一番初めにそれに気付いたのは、なんと闇の守護聖クラヴィスだった。
「ちょっとアナタ! 大丈夫!?」
 彼の執務室から出ようとしていたレイチェルは、呆気にとられてもう一人の女王候補の方を見た。
「だ…い、じょうぶよ。レイチェル。」
 額を抑えて振り返ったアンジェリークの目には涙が浮かんでいる。
 今、彼女の額はなんの防御も気構えもなく、クラヴィスの執務室の扉…しかもその鋭い角にぶつかったのだった。
「すっごい音だったよ!?」
 手をどけさせると、そこには見事にドアの角型の赤い筋が浮かんでいた。「へ、へこんじゃってる…」
「うそ…!?」
 アンジェリークは慌てて振り返り、廊下の窓ガラスに顔を映した。しかし窓は鈍く光るばかりで、彼女の額を写し出してはくれない。
「カガミ、鏡。」
 レイチェルは慌てて手鏡を取り出して彼女に渡した。
「ご、ごめんねレイチェル。」
「ほんっとに器用だよネ〜!? なんで自分で開けたドアにぶつかるかなあ?」
 レイチェルはたった今、クラヴィスに闇の力の育成を依頼したばかりであった。暗い部屋の中を殆ど手探りで戻り、さあドアを開けて外に出よう、という時に。いきなりその扉が開いて…この始末。
「ああっ、本当…。」
 鏡で確認し、改めてその衝撃を知るアンジェリーク。しかしその表情はどこか上の空。
 そんな二人の後ろから、クラヴィスは低く声をかけた。
「……入るのか? …それとも、出て行くのか?」
 いつまでも入り口でうろうろされては堪らない。そんな気持ちが伝わったのか、栗色の髪の少女は弾かれるようにクラヴィスを見た。
「クラヴィス様! ご、ごめんなさい…こんな所で…。ドアも開けっぱなしだし私ったら…。」
 途端におろおろする様子は、幾ら女王候補として経験をつんでも変わらない。最近は、落ちついてきたという噂だったがな…と、彼は水の守護聖が話すとも無しに言った言葉を思い出した。
「ちょっと、落ちつきなヨ!もう…とりあえず中に入ったら?」
 部屋の主を無視してレイチェルは言う。もっとも、クラヴィスも同意見であるのは間違いなかったが。
 アンジェリークは頷いて、額に手をやったまま室内へ1歩踏み入れた。
 既に育成依頼を済ませたレイチェルも、そのまま残る。
 重く厚い扉が背中で閉まり、部屋はまた静寂に包まれ…たかのように見えたが。
「…珍しいことだな。今、宇宙では闇の力が必要とされているのか…?」
 職務怠慢、と言うわけでは勿論ないが、おおよそ退廃的な彼は研究院に足を向けることさえ稀で、現在の宇宙の様子と言ったらエルンストから送られてくるヴィジコンへの情報がせいぜいだった。それさえも気が向かなければ見ることなど殆どない。
 そして今、女王候補二人を前にして、彼は僅かに戸惑っていた。一人ずつ訪ねてくる時はさほど感じないが、こう二人揃われると、明らかに室内の空気がざわめく。
 それは、僅かでも女王のサクリアを持つ者と、執務室の水晶らが共鳴するからだろうか。
「もお、クラヴィスさまってば。さっきワタシが言ったデショ? 必要だから育成してくださいって!」
「………。」
 流石のクラヴィスも、強気のレイチェルには少々敵わない。そう言えばそうであったな…という仕種を見せて、僅かにアンジェリークのほうへ視線を向けた。
「…大丈夫…なのか…?」
 彼にしては珍しく、人の様子を気にかけるそぶりを見せる。
「はい? …あっ、はい。大丈夫です。ちょっと痛いけど…。」
「ソレって大丈夫って言わないと思うよ…。ねえ、クラヴィス様! なにかお薬はないんですか?ココ。」
「薬…、か…。」
彼は一瞬視線をさ迷わせ、しかしすぐに答えた。「ないな…。」
「ええ〜??」
 レイチェルの声に眉一つ動かさず、クラヴィスは言った。
「そう言ったものは隣の執務室に行ってみるがよい。」
 その言葉にレイチェルがぽんと手を打った。
「あっ、そっか。ランディ様なら色々持ってそうだもんネ。さっ、行くよ? アンジェリーク。」
「えっ? でも、私まだ育成の…。」
「いいからいいから。クラヴィス様、大丈夫ですよネ?」
 闇の守護聖は小さく頷いた。どうせ行くべき場所もない。
「じゃっ! お邪魔しましたぁ!」
「ちょっと…レイチェルっ…。」
 勢い良く扉を開けて出て行く二人の姿を見送って、クラヴィスは手もとの水晶にふと手をかざした。
「…………。」
 そして、僅かに唇の端を上げる。
 笑ったのか、それともただの気のせいなのか。それは彼自身にしか分からない。
 彼は立ち上がって、私邸に戻る為の支度を始める。やりかけの書類に目を通し、サインをすれば終りだ。
 クラヴィスはもう知ったのだ。彼女がもう今日中には戻ってこないことを。
 そして水晶から僅かに漏れた、栗色の髪の女王候補の心も。
 それは彼の先読みの力。
 いつだったか、叶わぬ事を知りつつあえてその力に逆らった事もあった。けれど…。
 彼はもう二度と、自ら望んで自分の未来を観る事はないだろう。そして、彼はもう二度と自分の力に揺らぐこともない。
 クラヴィスは、獅子の心を持った男に想いを馳せた。
── 我々は似ている…。心の奥深くに宿す闇…そして孤独な共鳴。
 最後のサインを済ますと、彼は無表情なままペンを置いた。
── 最も近く、最も遠く…。そして、歩んで行く道は……。そう、まるで背中合わせに立つように…。
 この共鳴は、いつしか薄れ行く。彼は今まさにそう確信した。
 それを疎ましいとは思わない。むしろ…
── 夢を、見させてもらおう。
 彼は立ちあがった。闇色の髪が絹のようにさらりと流れる。
 そして重い扉を開け、明るい日差しに溢れた場所へ歩み出ていった。


「さ、これでいいよ!」
 ぺたん、と額に布を張り付けられて、アンジェリークは寄り目になりながらそれを見上げた。
「有難うございます、ランディさま。」
「リュミエール様のハーブを使った鎮痛剤だから、きっと明日には腫れも引くさ。」
 俺が保証するよ! と風の守護聖はさわやかに笑った。
「でも、…ちょっと匂うよ? コレ?」
 レイチェルはほんの少し眉を顰めてアンジェリークの額に目をやった。
 布に塗り付けられた薬はどこか信用ならない色をしていて、そのうえ妙に嗅ぎなれない香りがした。
「う…。」
ランディは言葉に詰まる。「実はそれ…ハーブのほかにも、色々入ってるらしいんだ…。その…なんでもルヴァ様がどこからか仕入れてきた『東洋の神秘』とかいう薬が、混じってるらしくて。」
「東洋の神秘?ナニソレ?」
 その言葉にアンジェリークも僅かに不安そうな顔をした。
「大丈夫だって! リュミエール様がくださったんだから…。」
 しかし、その元々の経路を考えると、彼の語尾も僅かに緩む。
「わ、私クサイんですか…?」
 なんだか泣きそうな表情で、アンジェリークは二人を見上げた。彼女自身はもう、あまりにも近くでその匂いを嗅ぎ続けているせいで、イマイチ鼻が利かなくなりつつあった。
「だ、大丈夫だよ、アンジェリーク! 平気へいき!」
 慌てて首を振るランディに、アンジェリークは僅かに不審の目を向けた。
「…本当に?」
「うんうん。」
 レイチェルは頷くに頷けなかったが、風の守護聖は全く気にしないようすだった。
「それにしても…最近生傷がたえないね、アンジェリーク。」
レイチェルは、尚も気になる様子で鼻を動かしながら、彼女に話し掛けた。「ワタシ知ってるんだから。アナタったらこの間も学芸館の階段から転げ落ちてたでしょう。」
 その言葉に、ランディは目を丸くする。
「え? そんなことあったのかい? アンジェリーク。」
 アンジェリークは恥かしそうに頷いた。
「それに、食事中に舌を火傷したり…。玄関先で躓いたり…。」
 続くレイチェルの言葉を、ランディが止めた。
「ちょっと待ってくれよ。俺もゼフェルに聞いたよ? アンジェリークがルヴァ様の執務室で、本の下敷きになったって…。」
「そうナノ? ワタシが聞いた話は、アンジェリークがオスカー様の執務室に置いてあったナイフを落として、危うくオスカー様の足に穴をあける所だったって話しだったけど?」
「嘘だろ? マルセルが言うには、落としたのはジュリアス様のチェスセットで、穴を開けそうになったのは、ティムカとのデートの約束じゃあないのか?」
 いつの間にか話はアンジェリークの怪我ではなく、彼女の失敗談に変わってしまったようだった。
「ねえ、どれがホントなの?」
「まさか、全部ってワケじゃないだろ?」
 二人は同時に振り返ってアンジェリークの顔を覗き込んだ。まじまじと見つめられて、アンジェリークの頬に赤みが刺す。
「………皆さん、このことは内緒にして下さるって言ってたのに…。」
 アンジェリークは、思わず小さく呟いた。
 途端に、レイチェルが声高に叫ぶ。
「あっきれた〜! ナニ? 全っ部本当のコトなの??」
 元々ボケているとは思っていたが、これほどとは。レイチェルは呆れて言葉を失った。
 一方、風の守護聖は妙に感心した様子だ。
「それはすごいなぁ。俺もそこまで失敗したことはないよ。…一体どうしちゃったんだい?アンジェリーク。」
 アンジェリークは恥かしさに潤んだ瞳を上げた。
「…それが…。私にもよく分からなくて…。なんだか最近ずっとぼんやりしているんです、私。」
「でも君は、ここの所ずっと調子良いじゃないか。」
 隣にもう一人の女王候補がいることで、僅かに遠慮ぎみにランディは言った。
「そうなんですけど…でも…。」
 アンジェリークがその理由を、分からないながらも彼に伝えようとした、その時だった。
コンコン。
 と、扉が鋭くノックされ、アンジェリークの前に屈み込むようにしていたランディは、ひとまず彼女を置いてそちらへ頭を巡らせた。
「はい! 入ってください!」
「…失礼。」
重い大きな扉を軽がると開けて入って来たその男性は、その瞬間鼻を刺激した嗅ぎなれない匂いに眉を顰めた。「…なんの匂いですか、これは?」
「ヴィクトール様!」
 その途端、アンジェリークは弾かれたように立ちあがった。
 ヴィクトールは驚いて彼女を見る。
 なぜここに? といった表情。
 先日別れてから、1度も彼女とは会っていない。意識的に避けていた、と言ってもいいだろう。
 まずい、と僅かに思う。
 頭を冷やすまで、彼女には会いたくなかったのに。
 けれど、会ってしまったものは仕方がない。そんな内心の動揺は押し隠し、いつもと同じ顔を彼女に向ける。
「おう、アンジェリークか…。」
そして、僅かに視線を逸らした。「レイチェルもいるのか? どうしたんだ?珍しいな。」
「ええ〜? ヴィクトール様こそ珍しいヨ。どうしたの?」
「俺か? 俺はランディ様に用事でな。」
そして改めてこの部屋の主を見る。「しかし…お取り込み中だったようですね。…俺は出直しましょう。」
 けれど、その台詞を受けたのはアンジェリークだった。
「あのっ、じゃあ私、これで失礼しますね…。本当にありがとうございました、ランディ様。」
「アンジェリーク?」
 ランディはおどろいて彼女を見る。
「私、もう行かなくちゃ。」
 そう言って、彼女はヴィクトールの脇を小走りに擦り抜けた。
「ええっ? ちょ、待ってよアンジェリーク。ワタシも行くよ! …ありがとうございました、ランディ様!」
 そして、きょとんとした顔のランディとヴィクトールが部屋に残される。
「…どうしちゃったのかな?」
 ランディは困惑した眼差しをヴィクトールに向けた。ヴィクトールも小首を傾げる。僅かに安心した様子で。
「…さあ? それよりランディ様、この匂いは一体なんなんですか…?」

「アンジェリーク!? どうしちゃったの?」
 レイチェルは彼女を追いかけ廊下に飛び出して、そこでぼんやりと立っているアンジェリークに話しかけた。
「……どうしちゃったの、って…。」
アンジェリークが振り返る。「分からないわ…わたしにも。」
 その彼女の顔を見て、レイチェルは驚いてしまった。
 まるで林檎病にかかった子供のように、アンジェリークの頬が染まっていたからだ。
「熱でもあるの!? 大変、寮に帰ろう、今すぐ!」
「うん…、でも私、クラヴィス様のところに行かなくっちゃ…。」
 言いながらも心臓が驚くほどの早さで鳴っている。
「莫迦ね、そんな顔して何を…。…って…。…え?」
 レイチェルはまじまじとアンジェリークを見た。
「大丈夫…なんだかだんだん落ちついてきたような気がするから…。」
 アンジェリークの言葉が終わるか終わらないかの内に、その顔色が覚めて行く。
「アンジェリーク…アナタ…。」
 レイチェルはもう一人の女王候補を、信じられない気持ちで見つめていた。
 ワタシは知ってる。このコの今の気持ち。
 それは、忘れられない一瞬。
「…とりあえず、寮に帰ろうよ。クラヴィス様にはワタシが言いに行くから。」
「でも…。」
 尚も渋るアンジェリークの背中をどんと押す。
「帰るの! …色々聞きたいことがあるんだからっ!」
 そう言って、レイチェルはアンジェリークを押し切った。


 そして、女王候補寮。レイチェルの部屋。
 彼女の煎れたフレーバーティを前にして、アンジェリークは落ちつかなげに座っていた。
 初めて訪れた彼女の部屋は、明るいブルーを基調とする整った部屋だった。無駄なものの少ない、けれど温かみのある家具揃え。同じ作りの自分の部屋とは随分違う印象を受けて、アンジェリークは辺りを見まわす。
 ふと、その視線が彼女の机の本棚に止められた。
『○○○○年卒 王立研究院 卒業生名簿』
 アンジェリークは小首を傾げる。その名簿は明らかにレイチェルのものではない。彼女はまだ卒業前なのだから。
「なに? ナニか珍しいものでも見つけた?」
 その時、レイチェルがお菓子の皿を持って戻ってきた。アンジェリークは慌てて視線を彼女に向ける。
「ううぅん。なんでもないの。…あ。美味しそうね。」
 皿の上に載せられたとりどりのクッキーに目を奪われて、名簿の事はすぐに忘れてしまう。
「でしょ? これはネ〜、私のお奨めだよ! すっごくおいしいんだから! さ、頂こう?」
 アンジェリークはその量に僅かに驚いたが、いつぞやの事を思い出し、きっと自分が帰る頃には全て平らげられているのだろうな、と思う。
「さて…と。」
レイチェルは席につき、アンジェリークを見た。「じゃあ〜…、…聞かせてもらおうカナ!?」
 アンジェリークはクッキーに伸ばしかけていた手を止める。そう言えば宮殿を出るときも、彼女はそんな事を言っていた。アンジェリークはなにも考えずにただ頷いた。
「うん。何を?」
 レイチェルはそんなアンジェリークに嬉しそうに微笑んだ。
「決まってるじゃない。…ヴィクトール様のコ・ト♪」
「えっ…?」
 その名前を聞いた途端に、頬を朱に染めた栗色の髪の少女を、レイチェルは珍しいものを見るような目で見た。
「すっごーい! 効果テキメンだね! ねえいつの間にそんな事になったの? もう隠さないで言ってよネ?」
「? 隠す? 何を…? ヴィクトール様が…どうしたの?」
 レイチェルはそんな答えにじれったそうに眉を上げた。
「だーかーらー〜。…本当になっちゃったんでしょ? ワタシが前に言ったコト。」
「前にって…なに?」
 訳が分からない、と言った調子で、けれど相変わらず心臓はどきどきしたままで、アンジェリークは首を傾げた。
 なんだかこれから大変な事が起きるような気がする。
 レイチェルはなんと言う事もない、と言う風に笑った。
「言ったじゃない。 『ヴィクトール様の事好きになったの?』って。…随分前の事だケド。」
 今までもやもやしていた事。
 考えても考えても分からなかったこと。
「す…、き……?」
 その言葉が唇を突いて出たとき。
 ここ数日答えを探してぼんやりしてばかリ居たことの答えを、アンジェリークは教えられた気がした。
 私が、ヴィクトール様を?
「ね、そうなんでショ?」
 悪戯気にアンジェリークの顔を覗き込むレイチェルの頬も、心なしか軽く染まっている。
「私………。」
 アンジェリークは視線を上げた。
 混乱と、困惑と、…それから甘い熱で浮かされた瞳を、彼女に向ける。
「ん?」
 促がすように問われて、アンジェリークは確信した。
 なぜ今日…ヴィクトールの前から駆け出してしまったのか。
 なぜこの間…ヴィクトールに誉められて嬉しかったのか。
 なぜ初めて会ったとき…胸がときめいたのか。
 アンジェリークは、ゆっくりと…噛み締めるように言った。
「私…ね。…ヴィクトール様が、好き。」
 そう言った瞬間に、レイチェルは破願した。
「…やっぱりネ! そうだと思ったんダ〜!!」
 そんなレイチェルの横で、アンジェリークは手に持ったカップを握り締めるようにして俯いていた。
 男性と触れ合ったのが初めてだったからではない。努力を誉められたからではない。額に妙な薬を張っていて、そして仕事の邪魔になると思ったからではない。

ただ、好きになっていただけ。

 アンジェリークは呆然としていた。
 初めての恋。

 これが、恋なの?
 胸が高鳴る。心臓が壊れてしまいそう。
 彼の事を想っただけで。
 彼の仕種を想うだけで。
 どうして、こんなに胸が温かくなるの?

 黙ったままのアンジェリークを、レイチェルは気遣って尋ねた。
「どうしたの? どこか痛むの?」
 ぶつけた頭が痛いのだろうか、とレイチェルは思った。そういえば、無理に連れてきたようなものだし…。
 しかし、アンジェリークは首を振り、レイチェルがドキッとするような笑顔を彼女に向けた。
「…アンジェリーク…。」
 レイチェルは思わず溜息を漏らした。しっとりと濡れたようなアンジェリークの微笑み。それは今先刻までの彼女の笑顔とは、どこか違った。
「私…こんな気持ちになるなんて、思ってなかった…。」
アンジェリークはそんなレイチェルに気付かずにそう言った。「知らなかったの。こんなに…こんなに嬉しい気持ちがあるなんて。」
── 私は、ヴィクトール様が好き。
 心の中で何度も繰り返す。
「あのね、レイチェル。」
 アンジェリークは言った。彼女の内から溢れるような幸せの光りに、レイチェルが戸惑うほどだったとは知らずに。
「私、頑張ろうと思うの…女王試験。…ヴィクトール様に喜んで頂けるように…ヴィクトール様が私の事、自慢の生徒だ、って言ってくださるように…。」
 そうして、もう1度レイチェルに笑いかけると、アンジェリークは改めて皿の上のクッキーに手を伸ばしたのだった。
 

 
- continue -

 

アンジェリーク、初恋。
ヴィク様と違って、彼女はまだ恋愛の苦しさを知りません。
こういった形式を取ってしまった以上、恋の瞬間は1度だけですからね。
そして、某HPで影響され、いきなり書きたくなった闇様。彼のヴィク様に対する感情の持ち方はとても好きです。
では、次回!
蒼太

2001.06.30

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