─ 下弦 ─     風兎 様 


 


太陽が俺のイメージだというのなら、彼女は神秘を司る月。
決して触れ合う事はないけれど、何十年に一度、触れ合う時を待っている。
ただ一瞬、彼の人の姿を求めて――――・・・ 

「ねぇ知ってる?地上ではあと百年したら太陽が地球を覆ってしまうって言われているのよ」
上弦の月光に髪を照らし、その柔らかな毛先を指先でくるくると巻きながら、未だ覚めやらぬ熱を持て余したように、アンジェリークは言った。
「百年か、俺達にとっては明日と同じだな」
アルコールのせいでどこか明るい声を響かせながら、逞しいばかりの褐色の肌を堂々とさらしながらローブだけを身につけたオスカーはその金の髪にキスを落とした。
「そうね。今こうしている瞬間にも、下界では長い時が過ぎて、人々は不安に覚えているのね」
「・・・・アンジェリーク、今日は・・・今日だけは、その話は・・・」
伸ばされた手に白い手を重ねながら、アンジェリークは頷く。
さらりと金の絹糸のような髪が肩を流れ落ちる。
オスカーの手に頬を当てながら、アンジェリークは『ごめんなさい』といった。
「今日、だけなのよね。今度はいつこうして会えるかも分からないのに・・・ごめん、ごめんなさい」
手のひらに伝わる熱い涙に、オスカーは自分の舌でそれを舐めあげる。
そしてそのまま俯いたままの彼女に口付けた。全てを忘れさせるほどの熱いキスを。
「・・・こうしている間にも、朝はやってくる。そうしたら、今度君に触れる事が出来るのはいつだ?」
「・・・分からない」
悲しげな瞳でアンジェリークは少しだけ離されたオスカーの瞼に口付ける。
今度触れあえる時はいつの日か。
二人が束の間の幸せを得られる日が・・・今度も本当にあるのか、いつも不安。
月と太陽が合わせあい、世界を闇に包む、その瞬間。
その瞬間だけ、天使はその白き翼を休めて姿を隠す。
太陽と月が交わる瞬間、その瞬間が、貴方と私が交わる瞬間。
いま、この瞬間がいつも全て。
「私達にはいつも今、この瞬間が全てなのね」
「太陽と月のようにか?」
太陽が地球を覆う。
―――それは、本当の事だって、言えない。
だって、私がそれを望んでしまったのだから。
宇宙はただ、私の望みを叶えてくれた、・・・ただ、それだけ。
ただ、分かっているのは・・・もう二度と二人は引き離されないと言う事だけ。
「・・・朝が来たら、きっと私達、いつまでも一緒にいられるわ」
「・・・そうだといいな」

明日、貴方と私が目覚めたら。
ずっとずっと、貴方の側に・・・


 

 


風兎(かざと)様のHP Little Angel Schoolにて、「今から30分間の内にBBSにゲット!と書き込んだ最初の人にリク権を」というホントに突発企画(笑)にて頂いたものです。
月が下弦になったとき二人は永遠になるのか…。日蝕をイメージしてらっしゃるそうです。すこしだけSFがかっていて切なくて。蒼太好みの設定でした〜。
ありがとうございました、風兎様!! 頂き日 2001.08.22
* この創作の著作権は風兎様にあります。

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