Tea For Two     桜木あおい様


 

「アンジェリーク、お茶をいれようか?」
彼の低い声がキッチンから聞こえる。
もう、すぐ甘やかすんだから。
お茶なら私が入れるのに。。。
アンジェリークはベットを抜けだし素早く部屋着に着替えると、声の聞こえてきた方へと向かう。
「ヴィクトール様、私が入れます……」

いつもとは違うポットが出ている。
耐熱ガラスで出来た、ポット。
お湯がぐらぐらと沸騰しているのが見える。
ヴィクトール様は?
当たりを見回すと、手に小さな箱を持ったヴィクトールが現れた。
「何ですか?」
思わず興味津々で聞いてしまう。
「あぁ。この間視察した星で、珍しい紅茶を見つけたんだ。」
昨日まで違う星にいたヴィクトール様・・・
仕事の度に、なにかプレゼントを買ってきてくれる。
私にとってなによりのプレゼントは、ヴィクトール様なのに。
ヴィクトール様が無事に私の元へ帰ってきてくれればそれでいいの・・・。
今日は、いつもプレゼントをしてくれるヴィクトール様に、私から大切なプレゼントがある。
とっても素敵なもの♪
アンジェリークは、ポケットにしまってあるものをきゅっと握った。
「イスに座っててくれ」
彼がそういうと、アンジェリークはイイコにテーブルについた。
窓から見える、庭の花々を眺める。
小さいけれど、私の宝箱。
この星にはない、いろいろな花々が咲き誇っている。
花の種や苗も、ヴィクトール様のプレゼントだ。
やわらかな風が部屋へ入ってくる。穏やかな日差し。
ヴィクトール様の腕の中にいるみたい。暖かで、安心できて。
ここ最近、すぐに眠気に襲われる。
その理由は、もうわかっているのだけれど。
しばらくすると、ヴィクトールがポットを持ってやってきた。
片手には、例の紅茶の箱。
「いいか、よく見ていてくれ」
そう言うと、ヴィクトールはポットの蓋を取ると、紅茶の葉をティースプーンに3杯入れた。
ヴィクトール様と 私と、そしてポットの分。
何気なくその様子を見ていると、驚いたことにその葉から出てきている色は青紫色だった。思わずヴィクトールの顔を見る。
それを見ると、ヴィクトールは頷き
「そうなんだ。今度は赤紫に変わるよ」
アンジェリークは視線を戻すと、再び驚いた。
徐々に赤紫に 、そして普通の紅茶の色に変化した。
「きれい。まるで……ハネムーンで見た朝焼けの空みたい……」
静かな波の音。白い砂浜。
夜明け前に小さなコテージでみたあの空のグラデーション……。
「だろう?思わず買ってしまったんだ。この紅茶の名前なんて言うと思う?」
くすっ。ヴィクトール様ってば、瞳を輝かせて子供みたい。
「なんて言うんですか?」
「Blue Mallow Teaと言って、別名夜明けのハーブティーと言われているらしい」
夜明けの・・・。私が感じたとおりなのね。
ヴィクトール様の顔を見ると、どうやらまだなにかお楽しみが待っているらしい。
彼は温めて置いた2つのティーカップに紅茶をつぎ、レモンとスプーンを添えた。
私の前へとカップを置いてくれる。
彼は私がカップにレモンを入れるのを見ている。
レモンを入れると、何かあるのかしら?
……!!
「きれい! ヴィクトール様!」
アンジェリークの瞳が輝き出す。それを見つめ、ヴィクトールは心が暖かくなった。
「レモンを入れると、今度は桃色に変化するんだよ」
それはまるで、目の前で頬を染め喜んでいるアンジェリークの頬のような桃色だった。
「素敵なプレゼントをいつもありがとう、ヴィクトール様。」
彼は少し照れくさそうに、「どういたしまして」と言った。
お互いが紅茶を口に運ぶ。
会話が無くても、想いが通じ合えるって素敵。
そこにあなたがいて、私がいて。
ときどき目が合うだけで、心が温かくなるの。
このひとときの中に、もう1人増えるとしたらヴィクトール様はお喜びになるかしら?
紅茶は深みのある味わいで、ほどよい甘味があった。
「すごくおいしい……」
よかった、アンジェリークは喜んでくれたみたいだ。
些細なことでも喜んでくれる、アンジェリークがとても愛しかった。
さぁ、今度は私の番……。
アンジェリークは、テーブルの上に何気なく乗せているヴィクトールの手に自分の手を乗せた。
「今日は、私からとっても大切なプレゼントがあるんです」
ヴィクトールは少し驚きながら、次の言葉を待つ。
「これ、見て下さい」
アンジェリークはポケットからそのプレゼントを出し、それをヴィクトールの手のひらに乗せる。
!!??
ヴィクトールの瞳は見開かれ、視線は手のひらとアンジェリークを交互に見ている。
喜んでくださるかしら?
アンジェリークはちょっと不安になった。
しかし、その不安はたちまち消えた。
彼の驚いた表情は、喜びに輝く笑顔になったのだ。
「アンジェリーク!!」
ヴィクトールは立ち上がりイスをひっくり返したのもお構いなしに、アンジェリークのところへすばやくやってくると、彼女を抱き上げた。
「本当か?本当なのか?」
真剣な瞳なのに、口元は笑っている。
その顔にアンジェリークも微笑みを隠せない。
「えぇ。本当です、ヴィクトール様」
アンジェリークを抱き上げながら、クルクルと回りだした。
「いつ?いつ生まれるんだ?女か、男か?」
クスクス笑いながら、アンジェリークは答える。
「まだ性別はわかりませんよ、ヴィクトール様」
彼の額に自分の額をくっつけた。
「あと8ヶ月もすれば、赤ちゃんが生まれます」
ヴィクトールはイスに座り、アンジェリークを自分の膝の上に乗せた。
「ありがとう、アンジェリーク……」
力強い腕でやさしく包み込む。アンジェリークもそっと抱き返す。
よかった、喜んでくださって……。
この子があなたの背負っているものを少しでも軽く出来ますように……
お腹をそっと手のひらで包み込んだ。
その手の上に、ヴィクトールの大きくて暖かい手のひらが重なる。
お互い瞳を合わせる。
愛しているよ、アンジェリーク。
私も。愛しています。
言葉を交わさなくても、その瞳を見ているだけで気持ちが通じ合う……。
そしてどちらからともなく、唇が合わさった。
穏やかな日差しの中、ふたりは幸せに包まれていた。


凄く素敵な日常。

こんな優しい時間が持てる二人がとても羨ましい。
これから二人は(いえ三人、いやもっとかな?)
沢山の時間を一緒に過ごしていくんでしょうね。

なーんて思ってしまう、この小説は桜木あおい様のHP「Lake of Angel」(閉鎖されました)で5000Hit記念に配布されていたものを頂いてきました。

う〜ん。素敵だなぁ。

* この小説の著作権は桜木様のものです。

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