女の子だけの楽しい夜会。
アイゼルにとって、それは憧れていてもなかなか実行できないことの一つだった。
けれどその夢は、入学したての頃にエリーを自室に泊めたのが勢いのつき始めだったのか今ではすっかり現実のものとなっている。
今となっては夜会暦も4年を迎えている、すっかり手馴れたものである。その間にメンバーも一人加わり、今日の夜会もアイゼル、エリー、ミルカッセといういつもの顔ぶれだ。
いつもの顔ぶれとは言っても、ねぇ。
この間の大会で、二人とも状況がものすごく変わっちゃったのよね。
「まぁ、エリーがそうなるのは時間の問題だとは思っていたんだけど」
まさか、ミルカッセが。しかも、あのエンデルク隊長と。
「はぁ」
いいなぁ。なんてプライドに賭けていえない彼女は、溜息で心を紛らわす。
「ふふ、まぁいいわ。今日は二人にとっておきの話をしてあげましょ」
さて、そのとっておきの話、とは?
*** 恋人の日 ***
その本を手にとったのはほんの気まぐれ。
最近は調合も卒業制作にかかりっきり。卒業をしたいだけならちょっとしたレベルのアイテムを作れば十分。でもそんなもので自分の四年間を表すなんて考えられないから。
「あら、ノルディス」
「あ、アイゼル」
彼と図書館で会うことは珍しいことじゃない。それでも、やっぱり会えるのは嬉しいしおしゃべりも楽しい。
「それじゃね、アイゼル。根を詰めすぎないようにね」
「ありがとう、ノルディス。あなたこそ体に気をつけてね」
彼と別れて最初にとった本がその本。
遥か東にあったという、今はもうなくなってしまった国。
いつもだったら読まないような内容の話なんだけれど、どうしてかその時はその話が面白かったの。
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「それでね、その国では2月14日がその聖人にちなんで『恋人の日』なんですって」
「命を賭して恋人達のために振舞った聖人様…。そんな話初めて耳にしました。きっとアルテナ様を祀る教会の方ではないのでしょう。それは残念ですけれど、同じ神に仕える身として感動いたしました」
「大変な国もあるんだねー。ザールブルグにはそういうことがなくてよかった。昔は大変だったって言うけど。やっぱり平和っていいねぇ」
「そうですね。全ては先達の方々の努力の賜物なのでしょうね」
あぁ〜〜、そうじゃないっ!私が言いたいのは、平和についてじゃないのよ。勿論この平和がなければ錬金術の開発はそのまま直接兵器の開発と等価だったはずよ。そうなっていたら私だってまさかこんな場所にはいられなくて、それどころか、考えたくないけれど家の安定のために……
「で、ね、アイゼル?『恋人の日』ってどんな日なの?」
「………え?」
そう、言いたかったのはそのこと。
「あ、そう。そう、『恋人の日』っていうのはね。好きな人に贈り物をして想いを伝える日なんですって」
『好き』を込めた贈り物を。
「つまりお誕生日みたいなもの、なのでしょうか」
「どうなのかしら。本にはそこまで書いてなかったのよね。何しろ今はもうない国の風習だもの、分からないことが多いのよ」
「ふーん、『恋人の日』かぁ」
「どう?みんなでやってみない?」
別に一人でやったっていいのだけれど。折角だから、みんなで楽しみたい。勿論、二人は『恋人』にあげるプレゼントを作るわけで、私と立場が違うのは分かっているけれど。込めたい気持ちは一緒のはずだから。
「ええ、素敵な案ですね」
「うん、丁度依頼もないし。何だか楽しそう」
結果報告は、来月のお泊りで。
そんな約束から始まる、乙女たちの戦月。
※エリーのアトリエサイト、「オレンジの軌跡」様閉鎖の為、頂いてきた品々です。
こちらの5作品を書かれたのは、管理人をされてらっしゃった「まはる」様です。なので二次著作権はまはる様にあります。無断転載などはされないでください。
閉鎖を知り、無理を言っていただいてきてしまいました。こんなに素敵な作品がWEB上からなくなってしまうというのは凄く残念な事だと思ったのです。では、どうぞお楽しみくださいませ。