年の瀬も押し迫るころ、ザールブルグの街はいつもより少しだけあわただしく、人は頬に笑顔を乗せて、新年を迎えるための準備をし、市場は一層活気づいていた。
街の中心部にある南入口付近に建てられた騎士隊の詰所でも、その雰囲気は同じ。
「年末は事件が多くて困るよな」
同僚から声をかけられ、武具の手入れをしていたダグラスは顔を上げて答えた。
「まー、大したことないものばっかりだけどな」
実際のところ、ここ数日は日に3度も4度も呼び出しがあったが、どれも、犬が逃げたとか、市場で喧嘩があったとか、小さな事件ばかりだった。
「ほう…大したことはないか。」
後ろから突然かけられたよく響く低い声。磨いていた剣を取り落しそうになって、姿勢をただすダグラスの肩におかれた、手甲をつけた手が肩をぐっとつかんで、離れた。
「っ申し訳ありません!」
勢いよく立ちあがって振り返った先に、黒髪の上司が立っている。
もう伸びないというほど背を正して立つダグラスに、エンデルクは軽くうなづくとそのまま詰所内を見回した。
「通常の業務から気が抜けるものも多い時期だが、気を引き締めることだ。」
気を抜いていたところを見られたダグラスはかしこまって立っているが、他の隊員たちにとって、この二人が並び立つのを見るのは、特別な意味がある。
毎年この時期は、武道大会が行われていた。
初めてダグラスがエンデルクに勝利した時、そのあまりの若さに、誰もが偶然か幸運かと言った。
その後、二人は毎年ザールブルグ中の注目を集めてきた。今、エンデルクに勝つことができるのは、このダグラスだけだ。
そして、今年も名物試合が行われるはずだった…のだが。
周辺国との関係上、今年の武道大会は中止となった。
そのせいもあって、騎士隊の面々は少々身体をもてあましている。
「休暇の件だが…。」
皆の視線に気づかず、エンデルクはダグラスに声をかけている。
年末の休暇という言葉が漏れ聞こえると、先程とは違った意味で、そわそわとした空気が流れる。年明けまでの休暇は、主に遠方に里帰りをするものを優先するが、運が良ければ市内に残るものも、2,3日なら連休を取ることができた。
「取り決めに不満があるものは、1週間前までに申請書にその旨記載して提出せよと伝えるように。」
一年以上前から、ダグラスは中隊を率いるようになっていた。隊を持つと、部下の管理は隊長が行うことになる。小隊を任されていた頃は、そんなに苦でもなかった任務が、今はダグラスの頭を悩ませる。
眉根を寄せているダグラスを見て、エンデルクはほんの少し笑ったように見えた。
数日後。
エリーは工房の木鶏をたたく音に、調合中の鍋から目を離して顔を上げた。
「はーい、あいてまーす!」
軽やかな声に、ドアが開く。
「よう。この間の依頼の件、どうなった?」
他の客よりも少し乱暴なドアの開け方に、わざと眉をひそめて見せてから、棚に向かう。
「フラム4個だったよね。ばっちりできてるよ」
棚から紙袋に入れながら、数と出来栄えと個数の確認をする。いち、に、さん、と声を出しながらも、入ってきた男の様子を横目で見るのは忘れない。
「今日はあいつらはいないのか?」
エリーと一緒に工房を切り盛りする二人を差して、ダグラスは尋ねた。
「マリーさんはアカデミーで、アニスは採取に出てるよ」
「ふーん…」
気のない様子でうなづくと、聖騎士姿のダグラスは、いつものように工房を眺めまわし、エリーの椅子に腰を落ち着けて、手元にあった試験管の並びに手を伸ばす。
「あっ、ダメ、触っちゃ!」
とたんに飛んできたエリーに、今度はダグラスが眉をひそめて見せる。
「わかってるよ」
めっ、という顔をして、試験管を遠ざけるエリーは、足元の妖精に声をかけた。
「ちょっとだけ見張っててね。」
「えー。調合遅れちゃうよー。」
文句を言う緑妖精に、ダグラスがかみつくような顔を見せてやると、おびえたように机の足に隠れようとする。面白がって捕まえようとしていると、エリーは紙袋をダグラスに渡てきた。
そして、当たり前のようにお茶の支度をはじめる。
「えーと、…この間ロマージュさんにもらったの、どこにしまったっけ…」
背伸びをし、棚に頭を突っ込むようなその姿に、ダグラスは腰を上げて、エリーの背後にたった。
「これだろ。」
棚の一番上に白い箱。
「なんで知ってるの」
「この間片づけてやっただろうが」
「そんな高いところに置かれたらわかんなくなっちゃうよ…それに、最近はアニスが片づけてくれて…」
すねた様に言い訳しながらも、ダグラスから手渡された箱を受け取り蓋をあけ、すぅと香りを吸い込み、微笑む。「わぁ…いい匂い。南国のお茶なんだって」
ほら、というように箱を差し出され、ダグラスも腰をかがめて香りを確かめる。
「へぇ…」
確かにこのあたりではかぎなれない、ハーブの強い香り。ふと目を上げると、エリーの顔が至近距離にあった。
反射的に口づける。
「…えっ、…あ、もう、ダグラス!」
軽く触れた唇がとがって、栗色の瞳が睨んでくるのを、笑ってかわすと、足元から視線を感じて見下ろした。
「……見張ってるのか?」
目が合うと、ちょっと頬を赤く染めた妖精が、口をゆがめてうなづく。
「っと…あ、もういいよ、ごめんね。作業に戻って。」
我に返ったエリーが指示すると、ほかの妖精たちの輪に戻りながら、ぶつぶつと文句を言っていたが、仕方がないよと慰められている。
「よーく言うこと聞いてるじゃねぇか。」
妖精の後ろ姿がすねているのを見て、おかしげに笑うと、エリーはもっと唇を尖らせる。
「妖精さんの前じゃだめっていったでしょ! もう…なんにも言うこと聞かないんだから。」
ダグラスは、新しく封を切った茶を淹れようとしているエリーに近づく。
後ろから、エリーの両脇さえぎるように手を伸ばし、机に手を置けば、抱きしめてはいないが、抱きしめたような形になる。
そうしておいて、耳元でささやいた。
「じゃ、二階で飲むか?」
階段を上がればそこはエリーやマリー、アニスたちの私室だ。でも、今二人ともいないのは分かっている。
ティーポットを持つ手が止まって、エリーが頬を染める様子を見て、ダグラスは笑った。
「今、変なこと想像しただろ。」
手をぱっと離して、からかうように言うと、エリーは今度こそ肩をいからせ、ぐい、とポットを突き出した。
「もうっ。自分でやってよ。私忙しいんだから。」
「依頼重なってんのか?」
からかいすぎたと気づいて、ちょっと鼻を掻くと、おとなしく茶を淹れる。甘くすっとした香りが部屋に立ちこめて、しかし、そのまま調合中の何かと混ざり、何とも言えない匂いになってしまった。
「そうなんだよ。誰かさんがフラム4個なんて急に言ってくるから……」
今度こそ鍋から顔を上げずに、作業に戻るエリーの横顔は真剣そのものだ。
「悪かったな。俺じゃなくて聖騎士隊に言えよ」
「クリスマスには蝋燭100本作ってて、その前は暗黒水を10だったの。それに君しか見えないも10で…」
毎年何に使うんだろうね、とのんきな様子で試験管を軽く振っている。
「なんだそれ」
自分だけ茶をすすりながら、すっかりくつろいだ様子で腰かけるダグラスの様子に、エリーが首をかしげる。
「もどらなくていいの?」
いつもなら、お茶は飲んでもそこまでのんびりした様子は見せないダグラスだ。どうかしたのか、という顔をして尋ねる。
「……戻るよ」
言いながらも立ち上がる気配のないダグラスに、エリーは気づかない。しばらく木匙で鍋をかき回し続けて、続く沈黙に気づいたのは5分は経ったころで。
「やっぱり何かある?」
あれっ? というように顔を上げてまたこちらを見たエリーにダグラスは一つため息をついた。
「いや。…代金ここに置いたぜ。じゃあな」
聖騎士団から預かった金を置くと立ち上がり、紙袋をつかんでドアに向かう。
「んー。ありがと」
また、上の空に答えるエリーを、ドアの前で振り返る。
「おい」
「ん? なーに?」
「それ、いつごろ終わるんだ?」
ドアノブに手をかけたまま、エリーの後ろ姿に向かって尋ねる。
「あと6日はかかるかな…みんな頑張ってくれてるけど。」
「……ふーん…」
すん、と鼻を鳴らして、ダグラスが出て行ったのに、エリーはやはりしばらく気づかなかった。
アトリエを出ると、ダグラスは心の中で舌打って、城の道を戻り始めた。
職人通りを出て、市場の脇を抜けるころには夕闇が迫ってきて、子連れの親子よりも恋人同士が連れ立って歩く姿が目立ちだす。
6日かかる、ということは、年が明けるということだ。
元々工房に籠って根を詰めるところのあるエリーだが、アニスという少女がやってきてから、どんどんその気が強くなってきているように感じる。
「大体クリスマスだって…」
ふつう、女のほうが騒ぐもんだろ、とひとりごちる。
自分もその時期はたまたま忙しかったが、エリーからも何の連絡もなかった。今聞けば依頼が立て込んでいたらしいこともわかるし、自分も忘れていたのだから何も言えないが。
採取に行けばひと月もふた月も帰ってこない。依頼が入れば10日も工房から一歩も出ない。
慣れてはいるが、錬金術士というのはずいぶん変わっている。
「…ったく…」
いつもなら自分も、武道大会へ向けて脇目も振らずに訓練を重ねているころだ。
だから、エリーがいくら工房に閉じこもっていても、気にはならない。
錬金術に夢中になるエリーを見るのは好きだったし、エリー自身が成長していくのを見れば励みになる。
けれど今年は。
気を緩ませているつもりはないが、少しほかのことに目を向ける時間が増えた。
たとえば、女三人で固まって、以前より尋ねにくくなった工房の二階のこととか。
偶然に空いた、自分のシフトのこととか。
── ひと月以上もまともに会ってないって分かってんのか、あいつは。
「ちっ…」
今度は声を出して舌打ちすると、正面から歩いてきた人間が、つい、自分を避けて通って行った。大人げなかった気がして、またむっつりとした顔になる。
自分でもうすうす気づいているが、こうなると、だいぶとっつきにくい様子らしい。
――ダメだよダグラス。そんな顔したら怖いよ?
けろりとした声をふと思い出し、思わず片手でほほを軽く撫でた。
思ったよりも冷たい指先に、雪が降るかな、と思った。
「あー…終わったよ、お疲れ様~みんな」
最後の調合が終わったのは、12月29日。足元では妖精たちがぐったりと床に腰を下ろして、足を投げ出し、黒いのなどは目を回して倒れている。
「おねーさん。納品にいかなくちゃ」
一番しっかりしている緑妖精は、さすがにきちんと期日を覚えていたようで、エリーを見上げてドアを指さす。
「そうだねぇ。もう、いかないと日付が変わっちゃう」
窓の外に見える暗さに、座ったばかりの腰を上げ、紙袋を三つ持つ。「鍵は締めていくけど、寝るならちゃんと戸締りしてね。マリーさんたちが帰ってきたら開けてあげてね?」
マントを肩につけ帽子をかぶって表に出ると、後ろから「いってらっしゃーい」と声がした。
「…わぁ、寒ーい……」
つぶやく唇の先に白い雪がふれる。「あ…降ってきちゃった」
ガス灯の明かりに、黒い空からちらちらと舞い落ちる白い雪が隠れては消える。
急ぎ足で飛翔亭に向かうが、家々はどこもカーテンを閉め、歩いている人影はない。カーテンの向こうから、柔らかい明かりが漏れ出して、時折、笑い声が聞こえてくる。
今年ももう僅かなんだと初めて思った。
しかも、今日という日は、あと数時間だけ。
――去年はどうしてたっけ。
白い息を吐きながら、思い出してみる。確かマリーと共に飛翔亭の年越しパーティに誘われていたけれど、結局マリーは採取に出かけ、自分は調合に夢中になって、確か、気づいたら新しい年になっていた。
「今年は年越しパーティに行けるかな…」
暖かな空気を思い出し、寒さにこわばっていた顔に笑みが浮かぶ。フレアはもういないけれど、彼女の作ったレシピは健在だ。あれこれと思い出しているうち、ふとつぶやいた。
「あ。でも……」
──去年はダグラスが来てくれたんだっけ。
余ったワインと食事を持って、アトリエに顔を出してくれた。エリーが依頼で疲労困憊しているのを見ると、ついでに、軽く工房を片づけてくれて、日持ちのするスープまで作って帰ってくれた。
飛翔亭の明かりが見えてくると、余計に思い出してしまって、ほんの少し頬を赤らめる。
たぶん、よく迷惑をかけているのだ。
知らないうちにあれこれと、気を使ってやってくれていたりする。
――普段、あんなにぶっきらぼうなくせに。
月の実をとってきてくれた時に、たぶん気持ちに気づいた。
楽隊の演奏が、どんどん場を盛り上げ、自然と人の輪ができて、歳の瀬の飛翔亭はいつにもましてにぎやかだった。
聖騎士の鎧を脱いだダグラスは、それを見るともなしに見ながら、カウンターの隅、いつもの席に腰かけてジョッキを傾けていた。
食事も終えてしまって、かといって家に帰る気にもなれない。
武道大会のない今年は、何か不完全燃焼気味だった。
ついため息と頬杖をついたダグラスに、ディオが目くばせする。
と、ほぼ同時に、慣れた気配に目を上げた。
「依頼の品、間に合いました」
オレンジ色のいつものワンピースに、肩に少し雪を乗せたエリーが、カウンターに手をついて、頬を寒さに赤く染めている。
「よく間に合ったな」
「へへ~。頑張っちゃいました」
アイテムを手渡しながら、エリーが笑う。少し酔った目でその横顔をじっと見ていると、その視線に気づいたエリーが、ふっと振り返った。
「あれっ、ダグラス」
今気づいた、というように笑う屈託のない様子はいつものことだ。
その笑顔に、つい、ぷいと顔をそむけた。
けれどエリーは気づかずに、当たり前のように隣に腰を下ろして、マントから雪を払う。 ヨーグルリンクと食べ物を少し注文し、ダグラスの顔を覗き込む。
ダグラスはますます顔をそむけて、壁のほうを向いた。
「いい出来だったな。ほら、今回の報酬だ」
「わ~。」
視線が外れたのを感じて、エリーの手元を見ると、結構な大金が重ねられている。こういった場面を見るたびに、エリーの錬金術士の腕を知る。会ったばかりのころの、未熟さや拙さはもうないことも。
すぐに、食事が出され、エリーはそちらに夢中になって、銀貨をカウンターの上に出したまま。
「……おい、さっさとしまえよ。あぶねぇだろ」
たまりかねて声をかける。
するとエリーは、少し黙ってから、ぱくり、と魚のクリーム煮を口に入れた。
「なんだ…ダグラス、何か怒ってるのかと思った」
内心、どきりとしたけれど、知らないふりをする。
「怒らせるようなことした覚えでもあんのか?」
後ろめたさのせいで、つい聞き返してしまう。エリーは思い出そうと上を見ながら悩んでいる。幼い仕草は昔から変わっていない。もう、20歳もとっくに過ぎたのに。
「――…怒ってなんかねぇよ」
ほらよ、と、テーブルの上の金貨をポシェットに仕舞わせてから、頬杖をつきなおし、ビールをもう一口。
「そう?」
「そうだよ」
答えてから、本当にそうだと気づく。
エリーは悩むのをやめて、にこり笑った。
「ふーん…――ね、今日は私服なんだね。お城の警護は?」
上から下までまじまじと見られる。聖騎士の青い鎧はない。
「休みだよ」
言ってから、これでは言葉が足りなすぎるかと思う。いつもそうだ。「明日までな。今年は珍しく休める」
「――ことしは?」
小首をかしげるエリーのイヤングが軽く揺れた。何か考え込む様子に、ジョッキを置いて向き直った。
「なんだよ」
「去年は?」
「去年はって……」
ふ、と去年の今頃を思い出す。確か…見回りの途中でエリーの家に寄って、エンデルクにこっぴどく絞られて…。
思い出して、か、と頬が染まった。
「きょ、去年のことは去年のことだ」
――まさか、そのせいで今年は連休じゃあるまいな…
隊長クラスの休みのシフトはエンデルクも目を通す。あの無表情な様子を思い出したら頬が熱くなった気がして、頬杖をずらし、エリーに顔を見られないように、口元を隠した。
ふと気づくと、何を考えているのか、エリーは食事の手を止めてぼんやりしている。
「…早く食えよ。さめるだろ」
ナイフとフォークを持ったまま、エリーが顔を上げる。それから、なぜか花が咲いたようにぱっと笑った。
「うん」
よほど腹が減っていたのか、嬉しそうに食事する横顔に、そっとため息をつく。
マリーがエリーのアトリエにやってきて3年。アニスがやってきて半年。
この数年で、エリーは錬金術士としての腕を上げ、名声はマリーとともに遠い町まで伝わっている。ダグラスはエンデルクに勝利し、毎年勝ったり負けたりを繰り返しながらも、剣士として絶頂期にあるエンデルクを、着実に追い越そうとしている。
そうやって、取り巻く環境も二人の関係も、変わったはずなのに、変わらないことがたくさんある。
たとえば今ダグラスが、エリーを食ってしまいたいと一瞬思ったことなど、気づいてもいないだろう。
「ね、ダグラス」
最後の一口を飲み込んでから、エリーがぽろりと言った「……きょう、うちに来る?」
「…な…っ…」
思わず、ついていた頬杖を外して、一瞬エリーを見ると、なんでもない様子でヨーグルリンクを口にしながら、あらぬ方向を見ていた。しかし、耳まで赤く染まっている。
その言葉をダグラスに伝える、その意味が分からなぬほどエリーももう幼くはない。
「エリー…お前な…」
ほんのわずかの間、空いた口がふさがらなかったが、やがて観念したように、笑った。「
…いかねぇよ」
口端を上げて笑うと、案の定、エリーは真っ赤な顔をしておろおろし始める。
ダグラスは、そのままうつむいてしまったエリーの肘をつかんで立ち上がらせた。
「メシ、もう済んだだろ? 行くぞ」
二人の会話は、カウンターの中のディオにも聞こえていなかったでもないだろうに、カウンターに出された二人分の代金に、何も言わずにうなづいただけだ。
「え? どこに?」
引きずられるように立ち上がり、ドアに向かいながらエリーがたずねてくる。
「俺んちのほうが近いし…お前の家には妖精がいるからな」
ドアを開け、エリーを先に通しながら、ダグラスは腰をかがめ、ほかの誰にも聞こえないように、エリーの耳元で囁いた。
そして夜明け――日の出の冷たい太陽の光が、カーテンの隙間から差し込む。
細い光の帯が、シーツとエリーの寝顔を照らし出す。
小さく口を開けて寝ているエリーを見て小さく笑うと、ダグラスはブランケットを引き上げて、エリーの肩までしっかりかけなおした。
疲れていたのだろう、家に戻ってワインを飲むと、エリーはそのままつぶれてしまった。
――この、酔っ払いが。
心の中で悪態をつきながらも、そのまま抱きなおせば、満足感が胸を満たす。
――きょう、休みでよかったな…
お互いの体温で暖まった毛布が、素肌に心地よかった。
まどろんで、目が覚めるころには日の光も温かくなっているだろう。
しばらくベッドから出られそうにないが、飛翔亭の年越しパーティには間に合うはずだ。
END
いや
数年ぶりに書いたら、なんとか書けましたが…
神様降りてきたけど、まさかのダグエリ。
文章のほうは、いろいろ、鈍ってて。
2012.2.3.