漫画部分 つまさき 様
小説部分 蒼太
どうしてあの時追いかけなかったんだろう。
立ち去っていくオレンジ色の小さな背中。一瞬前まで目の前にあった丸い瞳が浮かべた、寂し気な色に怯んでしまったことを、俺はもう三年もの間後悔している。
雪の女王
木製の重いドアに寄りかかるようにして、猛烈な雪嵐を外に締め出せば、途端に風の唸る音が途絶え、暖かな店内の空気が身を包んだ。
「お兄ちゃん! ……お帰りなさい。」
驚きとためらいの混じった声に振り返れば、声の主は白夜亭のカウンターで立ち働いていた妹・セシルだった。白いエプロンで手を拭きながら俺のほうへとやってくる。
「よぉ。」
俺……ダグラス・マクレインは、マントから雪を払って口端を上げて見せたが、セシルは俺とそっくりな蒼い瞳と、誰かさんに似た茶色い眉を顰めて俺を見上げた。
「今年も、また?」
聖騎士になってから初めてこの国に戻ってきたときは、セシルは俺に飛びつかんばかりにして喜んだ。蒼い目を輝かせて、どうして何年も連絡すらくれなかったのか、その、隣にいる女性は誰なのか…と。
だが今のセシルは、何も答えない俺になんと言っていいのか分からない様子でエプロンの端を揉み、テーブルを拭きに行ってしまった。
俺はそんなセシルの背中を少し眺めてから、カウンターの奥の老人に声をかけた。
「今年の冬も、しばらく世話になるぜ。」
ザールブルグの北方に位置する、高くそびえる山々に囲まれた小国家群のひとつに、俺の故郷、カリエル王国がある。ここには白夜亭という旅宿兼酒場があって、俺は三年前からずっと、妹が働くこの宿で冬の休暇を過ごしている。
店主のブライアンは俺の言葉に白いひげの下の唇をそっと微笑ませ、年のせいで丸まった背をかがめたまま、熱いワインをジョッキに注いで出してくれた。
「それで、手がかりは見つかったかね。エルフィールさんの。」
後ろでセシルが聞き耳を立てているのを感じながら、俺は黙って首を横に振った。
- つづく-
2012.07.13..