お勉強


 

 牛魔王は頭を抱えて電話の前に座っていた。先程までの相手はカメハウスに住んでいる亀仙人だった。
「悟空には全部教えてあるぞ」
国語の授業でばっちりだ。と亀仙人はそう言った。「じゃが、話を聞くにどうもアレとコレとが繋がっていないらしいのぅ」
 聞けば、『うっふん☆ あっはん文庫』とか、 『イヤン♪ だめだめ文庫』をテキストにしていたのだという。
 では、保健体育はといえば、皆無だそうで。
 自分もチチに対してしっかりと教えていなかったから、人の事は言えないが、それは間違ってるんじゃなかろうか。と牛魔王は考えた。
「とりあえず、式の前に悟空とチチちゃんをこっちに寄越せ。わしが直々に教えちゃる」
「本当ですか、武天老師様!」
「任せておけ。チチちゃん相手にあ〜んなことやらこ〜んな事を、隅から隅までシュミレートじゃ☆」
「チチは別の人に任せますだ」
 悟空は、亀仙人が自分を呼んでいると聞いて、あっという間に筋斗雲に乗り出かけてしまったが、さあ、それで不機嫌になったのはチチのほうである。
「身重の妻を残して行っちまうだなんて、ひでぇ旦那だ」
 受話器の前で考え事をしている父親の事などすっかり目に入らない様子で、ぷりぷりしながら洗濯物を干している。まだ式は挙げていないが、すっかり結婚した気分らしい。
「チチ、ちょっとこっちに来るだ」
 自分で教えるのは少し気恥ずかしい。同性の誰かに頼んで教えてもらえれば一番助かるのだが…さて一体誰に頼んだものか…。
 フライパン山の主として悪名高かった彼に、女性の知り合いなど殆ど居ない。そこで、牛魔王は頭を悩ませていたのだ。
「おめぇ、カプセルコーポレーションのブルマっておなごのこと、覚えてるか?」
 すると、やってきたチチは酷く微妙な顔をして頷いた。 
「昔、悟空さと一緒に居た紫の髪の子だべ? …知ってるし、こないだの武道大会でも見ただよ」
── ほんの少し喋ってみたら、応援していたのは悟空さではなくて、ヤムチャとかいう人だったけど。
 ちょっぴり、あの人の話をするのはイヤ。
「ブルマさの家に行って来い、チチ」
 チチの内心など分ろう筈もなく、牛魔王はそういった。アテは彼女しかない。
 電話で頼んだら、相当驚いていたようだが、牛魔王の純情に流されたのか、それとも単純に面白そうだと思ったのか、了解の答えを呉れた。
 曰く
「いいわよ〜。ウチにはでっかい3Dスクリーンもあるしね〜」
 それを何に使うのか知らないが、牛魔王はほっと胸をなでおろした。
「な…なしでおらがブルマさの家に行かねばなんねーだ?」
言外にいやだ、という雰囲気を込めて、チチは父親に食って掛かった。「ブルマさとおらたちの結婚と、どういう関係があるだ」
 式の前にどうしても、と言われてチチは本気で悩む。
 悟空が彼女にとってもお世話になったのは知っている。
 二人が長い時間を一緒に過ごしている事も知っている。
 全部、悟空に聞いたから。
「やだやだ! おらブルマさの家にはいかね」
 悋気、なんだと思う。悟空とブルマの間に何もなかったことなど分っているが、ブルマは綺麗で、活発で、何より悟空と対等に話す。
 自分はこんなに悟空が好きなのに、悟空に話を聞いていると、チチもブルマも同じ程度にしか大事じゃないみたいなのだ。
 だから、悋気。
「おめぇはブルマさに教えてもらわねばならねぇ事があるだよ。それをしらねぇと…子供ができねぇだぞ」
 牛魔王は真っ赤になって言った。
「やや子? それならおら、毎晩悟空さと一緒に寝てるべ。まだおなかは膨れねぇけど、そのうちできる」
「そうじゃねぇだよ……」
 弱りきった父親の顔に、チチは問いかけた。
「……もしかして、違うだか?」
愕然とした。嬉しがっていた悟空の顔が目の前に浮かび、ガックリ肩が落ちる。「どうして早く言ってくれなかっただ」
 牛魔王は、うなだれた娘の肩に手を置いた。
「悟空さも知らなかったみてぇだからな。武天老師さまの所に…その…修行に行ってもらっただ。帰ってくる頃には何でもしってるべ」
 全く。と牛魔王は思った。どうなって帰ってくるものか。もしかしたら、とんでもない事になっているかもしれない。
「悟空さが…」
 チチは顔を上げた。悟空が頑張っているというなら、自分も嫌だなどと言っている暇はない。
「でもなして、おらも亀仙人様の所へ連れて行ってくれなかったんだべ。おら、悟空さのためなら厳しい修行でも大丈夫なのに」
「おなごとおのこの教わることは別なんだべ。気にしてねぇで、ブルマさのとこ行って来い」
 そうして牛魔王は、家に一人残った。
 明日は式がある。二人も明日の朝には帰ってくるだろう。
 どんな顔をしているものか、気になって仕方ないが。
 さて…初孫はいつ見られるのか、楽しみだ。
 

<END>


 

悟空、国語の授業ちゃんと真面目に受けてたんかな…。
修行の事ばっかり考えて、苦手そうだった(笑)
多分、苦労して覚えて帰ってくるでしょう。
2002.11.02
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