「勝者! 孫 悟空!!」
グラサン司会者の腕が高く掲げられた。
負けちまった。
悔しかった。だって悟空さに一泡吹かせてやるつもりだったんだもの。いつまで待っても迎えに来ねぇ悟空さに。お嫁に貰ってくれるって約束したくせに、おらの顔みても名前さえ思い出さなかった。
「勝ったら名前、教えてくれるって言っただろ。おめぇ、誰だ?」
「おら…牛魔王の娘のチチだだよ」
少し、上目遣いに悟空さの顔を見ると、悟空さは、すっげぇびっくりした目をしておらのこと、見ただ。
「あんときの…」
ちょっと、ほっぺが赤くなったかもしれねぇだ。
悟空さってば、おらが想像してたより、ずっと格好よくなっちまってたんだもの。背なんかこーんなに高ぇし、腕もこーんなに太ぇし。
ううん、昔っから悟空さは……。…おら、照れちまう。
ホントはな。負けて悔しかったけど、でも、嬉しかっただよ。
おっ父の言ってた通りだった。悟空さは、初めて会ったときから強かったけども、あれからすっげぇ修行つんだんだなぁ。
だったらおらに会いに来なかったのも仕方ねぇだ。ちっとは許してやるべ。
「嫁に貰うって約束だったべ?」
こんなのホントはおなごの口から言う言葉じゃねぇだけども、おらもそろそろお年頃だ。いうべきことはきちんと伝えておかねば。
でも流石にもじもじしてしまったおらに、悟空さは言っただ。
「じゃ、結婚すっか」
……おらね、本当はね。
おっ父から悟空さの話…どんどん強くなって、色んなのと戦って、亀仙人さまも追い越しそうだって聞いたとき、悟空さがあの約束、忘れてしまうんじゃないかと思っただよ。
悟空さは、修行が好きだろ?
戦うのも好きだろ?
じゃあ…おらのことは何番目に好き? おらのこと、覚えてる?
悟空さを待ってる間、考えただ。
考えて、おっ父に稽古つけてもらっただ。悟空さをしっかり追っかけてこれるように。
おらはね、悟空さが一番すき。
「んだ」
悟空さの言葉に、おら当たり前のようにうなづいてただ。
うなづいてから、ぱぁあっと、胸にあったかい物が沸いてきただよ。
駆け寄って、腕に腕を絡めた。
「なんだよ。くっつくなって」
うふふ。悟空さったら照れてるだ。でも、恋人同士っていうのは、こうするもんだべ。
「な、なんと。孫選手、結婚してしまいました!!」
会場がうねるように沸く。
追っかけてきて良かった。
胸で感じてたあったかいものが、組んだ腕の温かみで、もっと大きくなった。
チチ…可愛い…。チチラブ。
勢い余ってこんなの書いちゃいました。
2002.11.02