聖バレンタイン…

それはヒミツ。
だって楽しみにして欲しいから。


「ここにあった雑誌、知らないか?」
 リヴィングテーブルの上をきょろきょろと見回した後で、ヴィクトールはキッチンを覗き込んだ。
「えっ?」
その声に、丸い目を見開いて振り返ったのは、チョコレート色のワンピースに白いエプロンをつけた、アンジェリーク。
「青い表紙なんだが。」
 言いながらカウンターに寄ると、アンジェリークが傍までやってきた。そしてほんのちょとだけ口ごもった後で、答える。
「…いいえ…?」
「そうか? …どこへ置き忘れたかな。」
 軽く頬を掻いて、思案するそぶりを見せるヴィクトールに、アンジェリークは軽く答える。
「テラス…じゃないですか?」
 そしてこっそりと、ほんの少しだけ体をずらして、キッチンテーブルの上に置いたままだったその本を、後ろ手に隠してしまう。
 けれど、そんな不自然なしぐさに彼が気づかない筈は無く。
 ヴィクトールはキッチンとリビングを分けたカウンターに寄りかかり、視線を泳がせた彼女の顔をじっと見つめた。
「…テラスか。」
 そう、相手の言葉を繰り返して尋ねる。
「テラス…じゃ、ないかもしれません…。」
 少し頬を染めて、アンジェリークは小さく答える。
「じゃあ、どこだろうな?」
 僅かに意地悪く、ヴィクトールは口端を上げた。
「どこ…でしょう…。」
 ますます居心地悪げに視線を逸らすアンジェリーク。
「アンジェリーク。」
 呼ばれて、アンジェリークは視線を上げた。
 そこに降ってくる、突然のキス。
「……っ…。」
 目を閉じる間もない触れるだけの軽い口付けにアンジェリークが驚いている隙に、ヴィクトールの長い腕が、彼女の隠した雑誌を取り上げた。
「…嘘もたまにはいいかもな。」
 そう囁くと、目の前で琥珀の瞳が微笑んだ。…いろんな意味を込めて。
 そして青い雑誌をひらひらと振って、リヴィングへ戻っていってしまう。
 口元を押さえて、アンジェリークは頬を染め。
 いつも彼が読む雑誌から選んだ「贈り物」を、忘れないうちに、とお料理メモの隣に走り書き。
── だってこうして紛れさせておけば、ヴィクトール様には絶対に分からないはずだもの。

 そう思い込んでいるのは、 彼女だけ?

 今年のプレゼントは、チョコレートと腕時計。


<おわり>


2002.??.??.

2002年 アンジェリークスタンプラリーの隠し商品でした〜。
折角なので、作品の中でも探し物をする、という感じの作品にしようと思い
書いたものだったので、面白がって書きましたね〜
でも今読み返すと、もう一ひねり半くらい出来たかも?
蒼太

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