プレゼント ** ゼフェル編 **


 

アンジェリークはいつものように、ずらりと品物の並ぶ棚をうす暗い中で見ていた。
「今日は何にしますのん?」
 商人は、彼女の姿を目ざとく見つけて寄っていく。
「えっと…今日は、ゼフェルさまへのプレゼントなんです。」
「ふんふん。ゼフェル様ねぇ。」
 仲がよろしな〜。と軽口を叩きながら、商人は頷いて笑う。
「そ、そんな…。」
 からかわれた事で、頬がぽうっと染まるその姿を、商人は微笑ましく見た。
「ええやん、ええやん。…ほな、何がよろしいでっか?」
 いつも同じからかい方をしているのに、いつまで経っても純なその反応がおかしくて、つい声を掛けてしまうのだ。
 そして。
「えっと…あれはなんですか?」
 棚の端に置いてあった緑の工具箱を指して、アンジェリークは言った。
── よーっしゃ! 商いのはじまりでっせ〜!!
 商人は心密かに気合を入れなおした。
 しかし、そのそぶりは全く表に出さない。
 さりげなく商品を棚から下ろした。
「あ〜。これ? コレはな〜。…ほれ、中見てや〜。一杯入っとるやろ〜? なんと!これみんな、この道50年の頑固職人のオールハンドメイド! …やねんで〜。」
「ハンド、メイド?」
「あ〜、それもただの工具とちゃいますのや! 滅多に出ないグラセン鉱石を使ったメッチャレアもの! 叩いても捻っても大丈夫。百人乗っても…やや、違った。…百年経っても、使いかたによってはぴっかぴかの、かなり! 貴重な工具なんでっせ。」
「凄いですね〜。」
 商人の次から次へと出てくる言葉に、アンジェリークはすっかり聞き入っている。そんな彼女の反応が面白くて、商人の口が更に滑る。
「しかも! 今ならお得! この緑の工具箱…これもなぁ…ホンマは企業秘密やねんケド…。この道100年の職人技やねん!」
「えっ。」
 100年…一体幾つの方なのかしら…と、アンジェリークは思ったが、口にはしなかった。
 商人は声を潜める。
「ここだけの話やで〜。…ほれここ見てみぃ…。」
 そうして、天幕の外から漏れる灯かりにその工具箱を持ち上げて見せた。アンジェリークは彼の指差した場所を、じっと見つめた。そこにあるのは、○の二つ重なったような模様…。
「な? 透かし入っとるやろ〜! これやん!!」
「これが…?」
「だ〜! もう、これが職人技や、ちゅーてんねん! …これがな〜。ニセモノと本物を区別するトコやねんで? こうしてな〜。目をつぶってここを触るやろ〜?」
「はい。」
 言われるがままに目を閉じて、アンジェリークはそこに触れた。
「な? な?」
「??」
「感触がちがうやろ〜?? これが、本物や!」
 アンジェリークは、商人の声に目を開けた。そして、不承不承頷いた。
「はい…そうですね。感触が…。」
 でも…これがなんの役に立つのかしら…。と、アンジェリークは思ったが、口にはしなかった。
 しかし、商人はそれで満足したらしかった。
「で、工具セット。買うてくれるん?」
「…はい。」
 始めからこれを買う気だった、などとはもうとても言えなくなっていたアンジェリークであった。
「毎度っ! おおきに〜。」
「有難うございます。」
「まった来ってや〜vv」

そして、鋼の守護聖ゼフェルの執務室にて。
 工具箱を嬉しげに受け取ってくれた鋼の守護聖には、その…100年の職人技の事を言って良いものか悪いものか…、アンジェリークは悩み…。そして結局の所は言わずに済ます事にした。
── だって、ゼフェル様だもの。そんなに素晴らしい技術の事なら、いつかは気付いてくださる筈だわ。
 そして、彼は。
 その透かしには気付いた…気付いたが…。
── なーんでこんなの入ってんだろうな〜。アンジェリークのやつ、これ知ってて買ったんか? …これさえなきゃな〜。でも、そんな事こいつに言ったら、きっと泣くかんな〜。

そして、二人は首を捻りつつ、その日のデートへ向かったのだった。


<おわり>



 

あ〜。これから続々出てきますんで。
こんなお莫迦な話ですが。お付き合いください。
実は商人が主役のシリーズでございますよ。
彼ってば出番少ないから。(笑)

2001.06.??.


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