プレゼント メル編


 

** メル→??  もしくは… 編 **

「こ〜んにちわ〜。チャーリーさん居ますか〜?」
 薄暗い幕内の前でそう彼を呼んだのは、占いの館の主、占い師のメルだった。
 チャーリーは彼の高い声を聞くと、いそいそと店先に出ていった。
「なんや、やっぱりメルちゃんやんか。珍しな〜?」
「こんにちは! チャーリーさん。メル今日ね、お買い物に来たんだよ。」
 無邪気に微笑んで、メルが言った。チャーリーの目がきらりと輝く。ここは何も女王候補のためだけの店ではない。普通に代金を貰って聖地の一般市民にも色々なものを売っていたのだ。
 今まで協力者が何かを求めに来た事はないが、これでまたお客が増える…。と、チャーリーはほくそ笑んだ。
「ほーかほーか。んじゃ見てってや? 欲しいもんや見たいもんが上の方にあるんやったら、このお兄さんが取ったるで〜?」
「んとね〜。メル、欲しいもの決まってるの。」
 メルは庭園の明るい日差しの下からチャーリーの店に入りながら、そう言った。まだ目が闇に慣れずにきょろきょろしている。
「なんや? 誰が欲しいもんでも何でも揃うとるで。お兄さんに言うてみ。キャンディもフリスビーもあるで?」
 しかし、メルはふるふると首を振った。
「メルね。オセロ盤っていうのが欲しいんだ。」
「オセロ盤? オセロゲームの事かいな。」
 商人は、意外な注文に首を傾げた。メルはそんな商人に頷いて見せる。
「あのね、メル今研究院のエルンストさんとオセロして遊んでるの。でもね、この間メルったらオセロの駒をどこかにやっちゃったの。だからホントは駒だけでもいいんだけど…。」
「わかった分かった。ほな探しまひょ。…ええと…どっかに…。」
 そして商人は、脚立をどこからか持ち出して、しばらく一番高い棚の奥を探っていた。
 と、その手が目的の物を探りあてたらしい。得意げな顔をしてメルに微笑んだ。
「あったで! …ちょーっぴり埃被ってしもてるな…。ちょちょいと払って…よっしゃ!ええで!」
 商人は、脚立を抑えて待っているメルに、一旦オセロセットを渡して降りようとした…が。
「ありがとうチャーリーさん! またねっ!」
 そう言って表に駆け出して行こうとするメルを見て、慌てて叫んだ。
「ちょ、ちょっとまってや、メルちゃん! お代をまだ頂いてへんよ!」
「えっ?」
 包装もしていないオセロゲームを抱えて、メルは不思議そうに振り返った。
「メルお金なんか持ってないよ? それにアンジェリークとレイチェルはお金がなくても買えるって言ってたよ。」
── あちゃ〜。
 商人は思わず頭を抱えた。そして、脚立をゆっくりと降りてメルの前に屈んで言った。
「そうやないんや…。女王候補はん達からは、お代の代りにハートを頂いとる訳で…メルちゃんもそうやろ? 占いするときにハート貰うやろ?」
「でもメル…。…メル、エルンストさんにこれあげるんだもん…。」
 大きな丸い瞳をうるうるさせられ、商人は悩んだ。
── あかん…こないな顔されて、断りきれるもんやないで…。けど、ただで渡すのは商人の最大のオキテ破りや…。
 そこで、商人は言った。
「ほうか…。んじゃ、こうしよか? そのオセロゲームでメルちゃんが俺に勝ったら、俺が自腹切ってそれをメルちゃんにプレゼントしたるわ。」
 言いながらも、密かに思う。
── なーんてな! 何を隠そうこのチャーリーはんは、仮にもウォン財閥を背負って立つ人間や! オセロゲームは得意中の得意。メルちゃんには悪いが、ホンマは全宇宙オセロ選手権大会・青年男子部門・第3惑星区で準優勝やねんで!
 つまり、ハナからただで渡す気はないのである。商人魂ここに至れり。
「ほんと!? メル頑張るよ!」
「手加減はせえへんからな〜。」
── けどまあ、ちょっとは手ぇ抜かへんと…。可哀想やからな。
 メルはいそいそと、店の隅のテーブルに、そのオセロセットを広げはじめた。
「準備できたよ! メルね、白いのが好き〜。」
「ほな、俺が黒やな。先行決めよか。じゃーんけーん…。」

 そして…。数十分後…。

「う、嘘や…。こんな事ある筈…。」
「わーい!メルの勝ち〜!!」
 白。 白しろシロ…。ゲーム盤の上は、ものの見事に真っ白シロであった。
「じゃあメル、エルンストさんにこれあげて来るっ! ありがとう、チャーリーさん!」
 メルはしかし、勝敗の結果しか見ておらず、チャーリーの魂が抜けたような状態には気付いていなかった。
 嬉しげに駆けて行くメルは。
 毎日毎日、エルンストとゲームしていた事を忘れてはならない。あの秀才と。
 勿論、メルが勝つのはエルンストが上手に手を抜いたときだけであったが。
「ふ、ふふふ…。」
 商人は思わず笑みを漏らした。…自虐の笑みを。
── あのゲーム盤はやな! 中国四千年の歴史…その道○○年の碁盤作りの名人の作やったんや〜!! 幾らすると思っとるんや〜!!
 しかし。約束は約束。
 商人は泣く泣く自腹を切って、オセロセットの代金を支払ったのであった。

<おわり>




 

さて。2作目でございます。
思いつくまま気が向くままにふえゆく(予定)のこのシリーズ。
楽しんで頂けていると良いのですが…。(笑)

2001.06.15.


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